簿記3級入門講座 減価償却

決算期になり財務諸表を作成するためには帳簿を修正しなければなりません。
この手続きを決算整理と呼びます。
今回は決算整理の一つ、減価償却を学びましょう。

 

簿記3級入門講座 減価償却

 建物や車など有形固定資産と呼ばれるものは
年月の経過や使用によってその価値が徐々に減少していく、と考えられます。
使用することにより物理的に壊れてしまったり、時代遅れになって相対的に価値が減少するわけです。
 形あるものいずれは朽ちてしまうってやつだね。
 そういうこと。
そういう意味から有形固定資産は少しずつその価値を失っていくって考えるのが自然なの。
 うん、そんな気はするね。
 ついでにちょっと細かい話をすると、
減価償却の目的で一番大事なのは一定期間の損益計算を正確にすることです。
つまり正しい利益を計算したいってことです。
日本の会計の考え方には「一期間の収益と費用を対応させて正確な利益を把握すべき」ってのが根本にあります。
 ??

 例えば、ある製品を加工する機械を50万円で購入したとします。
この機械は5年間使用可能で、この機械を通して生産される製品を販売して毎年100万円の売上があがっているとします。
この場合、一年間の収益と費用を考えると

【一年目に機械の取得原価50万円全てを費用計上する場合】
1年目:収益100万円-費用(機械の価値減少)50万円=利益50万円
2年目:収益100万円-費用(機械の価値減少)0万円=利益100万円
3年目:同上
4年目:同上
5年目:同上

とするよりも

【5年間で機械の取得原価50万円を均等に費用計上する場合】
1年目:収益100万円-費用(機械の価値減少)10万円=利益90万円
2年目:同上
3年目:同上
4年目:同上
5年目:同上

 とした方が収益と費用が対応していると考えられます。
なぜなら、この機械は1年目だけ製品を生産しているわけではなく、
5年間ほぼ等しく収益に貢献していると考えられるからです。
だから取得原価50万円を1年目に一度に費用計上するより、
5年間に分割して費用計上した方が適正だと見なせます。

そんな理由から毎年固定資産の価値を減少させる処理を行うことになります。
これが減価償却です。

 

減価償却の方法

 次に実際にどうやって減価償却費という費用を計算するのかを学びましょう。

 

減価償却の方法は4種類ありますが、簿記3級で出題されるのは一番単純な定額法だけです。
ですからここでは定額法の説明のみを行います。

定額法の計算式は以下の通りです。

(取得原価-残存価額)÷耐用年数=1年間の減価償却費

取得原価は固定資産を手に入れるために要したお金です。
購入手数料などの付随費用も含まれることに注意しましょう。

残存価額とは最後まで減価償却した後に残っているであろう価値を意味します。
通常は取得原価の10%です。
10%引くもんだと覚えておいてOKです。

ただ、この辺りも最近の会計基準の変更などで変わりつつあります。
2007(平成19)年4月1日以降取得の固定資産に関しては残存価額が廃止され、
残存簿価1円(帳簿上に存在させるために1円にしているけれど、実質価値がない)まで償却できるようになりました。
つまり、減価償却費は

取得原価÷耐用年数=1年間の減価償却費

という式になります。

 

耐用年数とは、その固定資産が何年間使用できるかを示しています。
ただ、その年数を超えると使用することができなくなるわけではありません。
あくまで減価償却を行う上で用いる数字ってだけです。
簿記検定上、必ず問題で与えられる数字なので覚える必要はありません。

 またまた蛇足的な話になってしまいますが、
固定資産にはその種類や使用目的に応じて「法定耐用年数」というのが法人税法で定められています。
木造住宅は22年、鉄筋コンクリート造は47年、自動車は3~5年、競走馬は4年
(動物も固定資産とみなされるので法定耐用年数が定められています)みたいな感じです。
日本ではこの法定耐用年数に従わなければなりませんが、
例えばフランスでは企業ごとにこの耐用年数を自社で決定することができます。
適正な耐用年数を考えるのは面倒ですが、この方が企業ごとに適正な減価償却ができそうですね。
ちなみに2014年ごろからIFRS(国際財務報告基準)が導入されると、
日本でも大きな企業では自社で耐用年数を決定しなければならなくなるかもしれません。

 

減価償却の仕訳

では実際にどういう仕訳をするのかを学びましょう。
減価償却の仕訳は「直接法」と「間接法」の2種類あります。
間接法を採用するのが一般的ですが、両方できるようにしておきましょう。

【直接法】
■例:04年4月1日(期首)、機械Aを24,000円で取得した。耐用年数は6年、定額法により減価償却を行っている。

費用の減少→ (減価償却費) 3,600 / (機械A) 3,600 ←資産の減少
 

【間接法】
■例:04年4月1日(期首)、機械Aを24,000円で取得した。耐用年数は6年、定額法により減価償却を行っている。

費用の減少→ (減価償却費) 3,600 / (減価償却累計額) 3,600 ←評価勘定

まず減価償却費の計算式ですが、
{24,000-(24,000×10%)}÷6=3,600
です。
残存価額はほとんどの場合10%なので、簿記検定で問題を解く場合
24,000×0.9÷6=
という風に0.9を乗じると素早く計算できます。

 

しかし、上記した通り2007(平成19)年4月1日以降取得した有形固定資産に関しては
残存価額がなくなりましたので、問題文を読んで判断しましょう。

 

さて、直接法と間接法の違いですが、
貸方(右側)の勘定を「機械A」にするか「減価償却累計額」を使用するかがポイントです。
結論から言うと、間接法、つまり減価償却累計額を使うのが普通です。

直接法は「機械A」という資産勘定から直接価値の減少を減算してしまっているので、
帳簿上示されている機械Aの値が償却後の数字になってしまいます。

 

後々分かってくると思いますが、
減価償却を計算する上で取得原価がすぐに分かる方が計算はスムーズに行えます。
直接法だと取得原価はパッと見では分からなくなってしまいます。
それに元々いくらで買ったものなのか、すぐに分かった方が何かと便利です。

一方、間接法では機械Aという勘定の値は取得原価のままです。

 

代わりに価値の減少分を減価償却累計額という勘定に蓄積し、
どれだけ価値が減少しているのかを知ることができます。

 

期中に取得した固定資産の減価償却

先ほどの例では期首(会計期間の初日)に有形固定資産を取得した場合について考えました。
しかし現実にはそんなことはまれで、期中(期首、期末以外)に取得することの方が多いでしょう。

では期中に取得した固定資産の減価償却はどうなるのでしょう?
計算方法は同じです。

(取得原価-残存価額)÷耐用年数=1年間の減価償却費

でもこれは一年間の減価償却費なので、使った月数分に修正しましょう。
減価償却は月割計算をします。
月割計算とは月単位での計算です。そのまんまですね(^^;

例を挙げましょう。

【直接法】
■例:04年7月10日、機械Aを24,000円で取得した。耐用年数は6年、定額法により減価償却を行っている。
なお当社は4月1日~3月31日を会計期間としている。

(減価償却費) 2,700 / (機械A) 2,700

【間接法】
■例:04年10月30日、機械Aを24,000円で取得した。耐用年数は6年、定額法により減価償却を行っている。
なお当社は4月1日~3月31日を会計期間としている。

(減価償却費) 1,800 / (減価償却累計額) 1,800
 

月割計算なので7月10日に取得した場合、7月~3月の9ヶ月で

3,600(一年間の減価償却費)×9ヶ月÷12ヶ月=2,700

10月30日に取得した場合、仮にその月に1日、2日しか使っていなくても1ヶ月として見なすので
10月~3月の6ヶ月間で、計算式は

3,600(一年間の減価償却費)×6ヶ月÷12ヶ月=1,800

となります。

 

有形固定資産の売却

決算整理ではありませんが、有形固定資産を売却する処理も覚えておきましょう。
そもそも固定資産を売却すること自体が例外的なのですが、
簿記検定に良く出題されるので、知っておかなければなりません。

 

【直接法】
■例:帳簿価額450,000円の建物を500,000円で売却し、代金は月末に受け取ることにした。
減価償却は直説法を採用している。

資産の増加→(未収金) 500,000 / (建物)      450,000 ←資産の減少
                 / (固定資産売却益) 50,000 ←収益の増加

【間接法】
■例:帳簿価額400,000円、減価償却累計額350,000円の建物を20,000円で売却し、現金を受け取った。
減価償却は間接法を採用している。

評価勘定→ (減価償却累計額) 350,000 / (建物) 400,000 ←資産の減少
資産の増加→(現金)       20,000 /
費用の増加→(固定資産売却損)  30,000 /
 

固定資産を売却した際に発生する費用、収益は
固定資産売却損固定資産売却益という勘定を用います。
(ただし、これは絶対ではなく建物売却損、建物売却益を使ったりもします。これじゃなきゃ駄目ってわけではないんですね。
簿記検定では問題の指示に従ってください。この勘定を使えって言われるので)
帳簿価額というのはそのまんま帳簿上記載されている数字という意味です。
固定資産の価値の減少は期末に行われるので、
ここで言う帳簿価額は期首の時点での建物の価値を示しています。
直説法の場合、この数字は取得原価ではなく目減りした数字であり、
間接法の場合、この数字は取得原価そのものです(例外はありますが)。

 

最後にもう一つだけ例題を。
簿記3級では必要ないかもしれませんが、
ここまでのことが理解できていればいくらでも応用は効くはずです。

■例:期首時点で帳簿価額400,000円、減価償却累計額350,000円の建物を
9月20日に10,000円で売却し、現金を受け取った。
この建物の耐用年数は30年で定額法による減価償却を行っている。
なお当社は4月1日~3月31日を会計期間としている。

(減価償却累計額) 350,000 / (建物) 400,000
(減価償却費)    6,000 / 
(現金)      10,000 /
(建物売却損)   34,000  /

借方の減価償却累計額と貸方の建物の数字は期首のものそのままです。
2行目、減価償却費を使っています。
本来、減価償却を行うのは期末なのですが、今回期中で売却してしまっているので
例外的に売却時までに使用した分の償却を考えてやります。

400,000(取得原価)×0.9÷30=12,000(一年間の減価償却費)

4月~9月の間使用したので6ヶ月です。

12,000×6ヶ月÷12ヶ月=6,000

これで半年分の減価償却費が計算できました。
売却して得た現金を加えて、借方・貸方の差額が売却損益になります。
今回は売却損になっています。

 

以上で減価償却は終了です。
今までの学習ではこれといった計算はありませんでしたが、
減価償却を行う場合は結構計算機を使います。

 
 
 


簿記の教材① 「とある会社の経理さんが教える 楽しくわかる! 簿記入門


トコトン分かりやすく、漫画で読み進め易い簿記入門書
恐縮ですが私の著書です。
一般的な入門書やテキストがあまり触れていない簿記の根本的な考え方に言及しています。
「なんでこんな仕訳をするの?」というところをしつこいくらい説明しています。

簿記検定の副読書としてもご活用ください。

対象は初学者、簿記3級合格者ですが、2級・1級合格者にも役立つ情報を掲載しています。
よろしければ本の中身サンプルをご覧ください。

読者様からいただいた感想もご参考ください(サイト全体に対するコメントも含まれています)。

簿記の教材② 「とある会社の経理さんが教える 楽しくわかる! 原価計算入門


さらに恐縮ですが、私の著書です。私の本業、原価計算の入門書です。こちらは
日商簿記検定2級の副読書としてご活用ください。

よろしければ本の中身のサンプルをご覧ください。
日商簿記2級で登場する工業簿記に相当する範囲を収めています。
個別原価計算、総合原価計算、標準原価計算、直接原価計算を扱っています。

おサルが趣味のお菓子作りを通して
「ものを作るために要する費用」の計算方法を学んでいくストーリーです。

原価というのは材料費だけではありません。
原価計算は商売をする人にとって必修科目だと思います。


次回日商簿記検定 2021年2月28日(日) 第157回簿記検定試験(1級~3級)
試験日の約2か月前になったら受験希望地の商工会議所に問い合わせましょう
商工会議所の簿記ページ:http://www.kentei.ne.jp/bookkeeping/



簿記初心者入門講座トップ
簿記初心者入門講座TOP


体験談を公開
簿記の勉強法
 ∟簿記の勉強法
 ∟簿記3級の勉強時間・難易度
 ∟簿記2級の勉強時間・難易度
 ∟簿記1級の勉強時間・難易度
 ∟自由時間の作り方
 ∟簿記検定本試験用の勉強法
 ∟スケジュールの立て方
 ∟計画倒れにならないために
 ∟本試験前日の準備
 ∟本試験時の受験テクニック
 ∟りんごアップルの法則
 ∟簿記1級直前期の1日の時間配分
 ∟合格のための精神論

実際に試してみました
おすすめ教材
 ∟日商簿記3級用教材
 ∟日商簿記2級用教材
 ∟日商簿記1級用教材
 ∟簿記検定を学べる専門学校
 ∟専門学校の受講スタイルは?
 ∟会計の知識upの書籍
 ∟おすすめ電卓

資格を取ったら
簿記の資格を活かす
 ∟就職活動に使う
 ∟社内の評価upに使う
 ∟税理士試験に使う
 ∟公認会計士試験に使う

管理人プロフィール
簿記との関わり
 ∟管理人が簿記を学ぶ理由
 ∟簿記検定の遍歴
 ∟簿記1級に失敗した理由
 ∟日商簿記合格証書
1st STEP
簿記の基本を学ぶ
 ∟入門の入門
 ∟超初心者簿記入門
 ∟簿記ってなに?
 ∟簿記で良いことあるの?
 ∟簿記はやった方がいい?
 ∟簿記をはじめよう
 ∟単式簿記と複式簿記って?
 ∟複式簿記の利点って?
 ∟仕訳を覚えよう
 ∟勘定科目の分類
 ∟資産・負債・純資産って?
 ∟収益・費用って?
 ∟財務諸表を知ろう
 ∟一年間の流れ
 ∟簿記検定とは

2nd STEP
日商簿記3級講座
 ∟日商簿記3級って?
 ∟簿記3級の学習範囲
 ∟簿記3級の勉強法
 ∟商品売買の学習範囲
 ∟商品売買
 ∟三分法
 ∟付随費用
 ∟掛取引・手形取引
 ∟値引き・返品
 ∟現金
 ∟当座預金
 ∟手形取引
 ∟会計処理は複数?
 ∟仕訳と勘定
 ∟その他の債権・債務
 ∟有形固定資産
 ∟有価証券
 ∟補助簿
 ∟決算整理
   ∟減価償却
   ∟貸倒引当金
   ∟商品の決算整理
   ∟経過勘定
   ∟現金過不足
   ∟有価証券の評価
   ∟消耗品



3rd STEP
日商簿記2級講座
 工業簿記
 ∟工業簿記とは?
 ∟原価と原価計算ってなに?
 ∟工業簿記と原価計算の関係
 ∟原価計算の種類はたくさん?
 ∟材料費・労務費・経費を学ぼう
 ∟直接費と間接費
 ∟個別原価計算・総合原価計算?
 ∟個別原価計算を学ぼう
 ∟部門別個別原価計算を学ぼう
  ↓編集中
 ∟総合原価計算を学ぼう
 ∟工程別総合原価計算を学ぼう
 ∟等級別別総合原価計算を学ぼう
 ∟財務諸表と本社工場会計
 ∟直接原価計算
 ∟実際原価計算と標準原価計算



4th STEP
少し高度な簿記
 ∟税効果会計
 ∟資産除去債務
 ∟純資産の部の内容
 ∟有価証券の種類と評価















ビジネス力UP!
ビジネス知識
 ∟小売と卸売の違い
 ∟年商数億円てすごい?
 ∟手形の仕組み



 サイトマップ
じめに
TOPページ
このサイトについて
管理人プロフィール
Twitter ツイッター
RSS

仕紹介
経理さんのお仕事




画・絵
経理さんの絵日記
ネタ・オリジナル漫画
Lineのスタンプ


とある夫婦の日常生活

書・書評
面白かった本など
超初心者簿記入門
宅地建物取引士入門
QC検定入門
第二種電気工事士

趣味・ビジネススキル
Excelの便利な使い方
ACCESSの使い方
絵を描く
動画を作成する
サイトを作って運営する

お金を増やす
激安生活節約術
株式・デリバティブ投資
不動産投資
無料ネットビジネス


その他
リンク
お勧め商品・サービス
過去のコメントレス1
過去のコメントレス2
新版とある経理
東山デンタルクリニック

トップ   編集 凍結 差分 履歴 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2019-12-19 (木) 17:58:50